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大学院生のブログ

人生まるごと今後の課題

映画『ヘアスプレー』に登場するファッションについて

ファッション 映画

この週末は、映画『ヘアスプレー』(2007年製作)を久しぶりに見た。ミュージカル映画というものは、思わず踊りだしたくなるような活気にあふれていて、見ていて楽しい。この『ヘアスプレー』も、黒人差別やルッキズムという重ためのテーマを扱っていながら希望の持てる仕上がりになっている。とても好きな映画だ。

しかし、ストーリーとは少し外れて、ついつい注目してしまうのが登場人物のファッション。

この映画は1962年のボルティモアを舞台としている。60年代前半のアメリカといえば、ソ連による有人宇宙飛行に触発され、科学技術への期待が大きく高まった時期。*1ファッションにおいては、いわゆる「宇宙時代(Space Age)」がやってきた時期だ。
映画中のファッションにもそれが反映されているので、見ていて楽しいのである。

たとえば、主人公のトレイシーが通っている高校のシーン。ここで女性たちが着ているのは、60年代ファッションではなく、50年代のファッションだ。

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なだらかな肩・細く絞ったウエスト・長いフレアーのスカート。これはクリスチャン・ディオールが1947年/SSコレクションで発表した、「ニュー・ルック」と呼ばれるスタイルをルーツとしている。

ディオールのニュールック:40年代ファッション

高校のシーンだけでなく、テレビ番組「コーニー・コリンズ・ショー」の出演者たちも50年代ルックだ。
映画を未視聴の人向けに説明しておくと、この「コーニー・コリンズ・ショー」は若者層を中心に大人気の番組という設定。ただし番組内では黒人差別が行われており、月に一度の「ブラック・デー(Negro Day)」以外は黒人の出演を拒否している。

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ちなみに、番組のプロデューサーであり、黒人差別・ルッキズムを強固に主張するヴェルマはマリリン・モンロー風の出で立ち。

このマリリン・モンローもまた、50年代を中心に活躍した女優だ。(彼女が亡くなるのは、『ヘアスプレー』の舞台である1962年。)

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一方、話は進んで、トレイシーと母・エドナが婦人服店のモデルとして招かれるシーン。
この婦人服店はさすが、流行の最先端を取り入れているらしい。並んでいる服は、いかにも60年代風のポップな色合い。ワンピースの丈も短く、50年代のフィット & フレアーな形から、ストンとした形になっている。

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そして、モデルとして変身させられたトレイシーとエドナ。このギラギラ感は、おそらく「宇宙時代」をイメージしたものか。

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これまで体型を気にして、ほとんど家から出なかったという母エドナ。そのエドナが、カントリー風の服から60年代ファッションに着替えて、自信を持って踊りだすのである。そしてここで流れる曲は、その名もずばり《Welcome to the 60's!》。ファッションの前知識があると、何倍も「おおっ」となる演出だ。

さて、映画のクライマックス。いろいろな妨害を乗り越え、番組へ降り立ったトレイシー。そんなトレイシーが身を包むのは、もちろん60年代ファッション。

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50年代のアイコンであるライバル・アンバーを押しのけ、ステージに立つステイシー。そして物語は大団円となって終わる。新しくやってきた60年代が前の時代を押しのけて輝くさまが、ファッションのレベルでも表現されているのである。

60年代は、公民権運動の広がりとともに、非西欧社会への関心も強まった時期だった。
さらに同時期、女性たちの出で立ちも、これまでの「男性からの視線」を意識したものから「自分のために装う」ことを意識したものへと変わっていく。

その時代のうねりが、キュートなファッションとともに表現されているのが『ヘアスプレー』という映画なのだと思う。前提知識を増やせば増やすほど、楽しめる映画だ。Amazonプライムにもあるので、ぜひ一度、ファッションに注目しながら見てみてほしい。

*1:ヒッピーが登場するのは60年代後半。