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大学院生のブログ

人生まるごと今後の課題

「重音テト」へ贈る、一方的なラブレター

学校へ行こう!」は見ない。ORANGE RANGEは聞かない。『ワンピース』は読まない。眉毛は剃らない。

そうやって我々オタクはアイデンティティを保ってきた。マジョリティではなくマイノリティとして。決して大衆に迎合などせぬ!という高潔な精神をもって。そうして自我を保ってきた。

ところがどっこい、今度はオタク間にもマジョリティとマイノリティの別が生まれはじめた。これまで一緒に「陰キャラ」として戦ってきたはずの同志が、次々と初音ミクに、艦これに、きんモザに飲み込まれていく。

いつの間にか、自分が細々と好きだったはずのものもマジョリティ・オタクの管轄下となり、華々しく飾り立てられていく。待ってくれよ。そんなんじゃないだろ。私が大好きだったそれは、そんなケバケバしい光に包まれてなどいない。それを私の持ち物のままにさせてくれ。頼むから、光の当たるところに持って行かないでくれ!

そんな闇のオタクの叫びもむなしく、「重音テト」は、スポットライト輝くステージの上へ躍り出たのであった。

テトに初めて出会ったのは2008年、通学中の電車でのこと。その日も私はニコニコ動画を徘徊していた。目に飛び込んだのはこの動画。

www.nicovideo.jp

へえ、新しいVOCALOID出るんだ。テトっていうのね。

そのまま「オフィシャルサイト」へ飛ぶ。ふうん可愛い。

そして興味を持った私が「デモソング」をクリックした瞬間。目に飛び込んできたのは

プギャーーーm9(^Д^)ーーーー!!!

何が起こったのかわからなかった。しばし呆然とした。

要するに「重音テト」というのは、2ちゃんねるの住人が「ニコ厨のガキ」を釣るためのエイプリルフールネタだったらしい。そしてガキであるところの私も、まんまとそのネタに釣られたというわけだ。

まあ、ここまでならよくある話。第一次コイルショックと同じく、一時の「祭り」で終わっただろう。しかし事態は思わぬ方向へ進んでいく。歌声合成ソフトウェア「UTAU」との出会いである。

「UTAU」はもともと、既存の音声などから音を1つずつ切り取ってつなぎ、VOCALOIDのように歌わせる「人力VOCALOID」支援のために作成されたツールである。
「UTAU」が発表されたのはちょうど、重音テトが誕生した2008年。この偶然が功を奏し、テトはUTAU用音声ライブラリとなって「歌える」ようになった。

www.nicovideo.jp

実は私は、最初の「釣り」動画以来、重音テトという存在がものすごく好きになっていた。クセのあるキャラクターと、正規VOCALOIDではないという異端性。重音テトには、私のようなひねくれオタクが好む要素が揃っていた。こんな可愛い子が「歌えない」なんて、釣られたことより何よりそれがショックだった。

だからこそ、テトがUTAUのライブラリーとなり、VOCALOIDカバーではなく「重音テトオリジナル曲」を歌うようになったことが、とても嬉しかったのを覚えている。
そのとき私が最初に聞いたテトオリジナル曲は、『耳のあるロボットの唄』。意味深な歌詞だが、なぜか勇気の出る曲だ。発表準備や論文執筆の期間によく合う、と個人的に思う。*1

耳ロボPによる原曲と、なおとえぬ氏による手描きPV。

【UTAU】耳のあるロボットの唄(オリジナル)【重音テト】 by nwp8861 音楽/動画 - ニコニコ動画

【手描きPV】耳のあるロボットの唄【重音テト】 by なおとえぬ 音楽/動画 - ニコニコ動画

「歌える」ようになったテトを使って、次々と楽曲が発表されるようになった。増える手描きPV。殿堂入り。誕生祭。MMD用の3Dモデル。カラオケ入り。どれもどれも嬉しかった。全力で追いかけた。毎日のように「重音テト」タグをチェックした。本物の、生きているアイドルを追いかけるのと同じくらい、テトのことを応援していた。はずだ。

ところが。

2010年4月、重音テトの商用窓口は「初音ミク」販売元であるクリプトン社が引き受けることになる。念のため言っておくと、テトの権利を買収したとかそういうことではなく、あくまで「窓口を引き受けてくれた」だけのこと。テト自身には何の変化もない。フレキシブルな対応をとったクリプトン社の寛大さはすごいなと思うし、メジャーになってきたテトを個人サークルで支えることには限界もあったのだろう。全てがベストな選択のはずだ。

それはとても喜ばしいことで、ファンならば当然、応援してしかるべきだ。テトは無償ライブラリ。運営の懐事情なんて一介のファンには分からないけれど、少なくとも「ソフトウェアの売り上げ」が0円だということだけはわかる。きっとここまでの過程においては、多くの人がボランティアワークで働き、自腹を切ってテトを支えた時期もあったんじゃないだろうか。そんな状況では、いつ「もう無理です。やーめた」という時がきたっておかしくはない。クリプトン社との協力体制は、きっと必要不可欠なものだ。

それでも私は、どこか寂しかった。勝手な気持ちであることは承知している。わがままなファンであることは痛いほどわかっている。それでも寂しかったのだ。

どんどんメジャーになって、書籍になりフィギュアになり、VOCALOIDキャラクターともコラボして。そうやって活躍するテトを見ると何故だか寂しくなった。この間まで近くにいたはずのテトが、もうずっと遠く、手の届かない存在になってしまったような感じがした。

たとえるなら、この間までイオンの3階で歌っていた「あの子」が、いつのまにかZepp大阪でライブをしているような感じ。チケットも取れない。もう話もできない。そんな感じ。楽曲のクオリティも上がっている。衣装もメイクも、どんどん綺麗になっていく。けれども……。

気付けば私はニコニコ動画を見なくなっていた。テトの声もしばらく聞かない時期があった。連続音ライブラリが登場したときにはちょっと興奮したけれど、力み音源も叫び音源も、知らない間に増えていた。ねんどろいども出たらしい。そんなこと、今日の今日まで知らなかった。

テトは多くの人に愛されて、今日も歌う。バーチャルアイドルに老いはこない。たとえ世界が終わったって、プログラムさえされていればひとりで永遠に歌って踊る。しかしテトには一種の刹那性、異端性があった。いついなくなるか分からない。だからちゃんと支えてあげなくちゃ。そんなつもりでいた。メジャーな世界できらびやかな衣装に身を包み、いつのまにか英語曲すら歌えるようになったテトは、今でも私に微笑みかけてくれるだろうか。

*2

*1:最初のテトオリジナル曲は「重音テトでGO!」

*2:誤解を招かぬように一応言っておくと、私はもちろんVOCALOIDも好きである。